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クラシックギター製作塾・tamaniwaワークショップ

 

tamaniwaワークショップと私

 

1992年6月、私は最初のギターを作り始めました。いまから考えてみてもどうしてある日突然ギターを作ろうと思ったのか、その理由は分かりません。どうしてギターでなければならなかったのか、それも分かりません。思いついてからというものは、機会あるごとに製作法を求めて書店や図書館を見て回りました。しかしいまでこそたくさんの本がありますが、当時はギターの作り方を教えてくれる本などはありませんでした。材料などもどこで買ったらいいのか、どんな工具が必要なのか、まさしく五里霧中でした。インターネットなどというものもいまほど普及しておらず、なにかを外国から取り寄せるにはファクシミリを使うしかなかった時代です。

生の材料から作り出すのはあきらめて、キットを求めました。ところが意外なことにキットには作り方をていねいに教えてくれるような親切な説明書は入っていませんでしたから、五里霧中の状態は変わらず最初から試行錯誤の連続でした。とりあえずバイオリン製作の本を参考にしながらの作業でした。仕事から戻ると食事もそこそこに、狭い部屋にブルーシートを拡げ、古い食卓の脚を組み立ててから作業をしました。そして1時間もするともう寝る時間になってしまい、掃除をしてシートを片付け、テーブルの脚を外さなければなりませんでした。そんな状態ですから、その記念すべき1号器が完成するまでに1年8ヶ月もかかってしまいました。それでもあきらめずに作業を続けたのですから、私とギターの間にはなにか強い縁があったのでしょう。

ところがこの第1号器はただバリバリというばかりで、きれいに鳴ってはくれませんでした。ちょうどその頃、東京町田市玉川学園にバイオリン製作者、茶位幸信さんという方がおられるということを知り、さっそく門をたたきました。茶位さんは音のいいギターをお作りになることでも名の知られた方です。では次の木曜からおいでということで、私の本当のギター製作が始まりました。

茶位「親方」のもとで都合3本のギターを作りました。若いお弟子さんに混じって、週に2時間の作業を楽しみました。このときの楽しさはいまでも懐かしく想い出します。ここには楽器工房に限らずどこにでもある「門外不出」の秘伝などはありませんでした。ギターに関する基本のすべてを余すところなく教えてもらいました。そうはいってももちろん素人が茶位ギターと同じ音が出せるわけはありません。これは当然のことです。そこには確かに「秘密」があります。しかしその秘密は自分で工夫しながら会得するものなのです。

キットになくて茶位工房にあったもの。それはていねいな指導とちょっとしたヒントです。音の出るギターを作るコツというか、長年の経験から生まれた法則です。欧米(特にアメリカ)のギター関係のホームページを覗いてみると、日本でなら決して公表しないだろうと思われるような「秘密」を包み隠さず公開している例に出会います。自分が試してみて、これはいいと思われる技術やジグ、手順などを自分だけのものとせず、広く知らせようとしています。ひとつの理由として、それだけ自分でなにかを作ってみようと思う人々の層が広いからなのだといえますが、茶道や華道などの分野に見られるように、閉鎖的な「道」の歴史を持つ国の文化との相違ともいえます。インターネットによるギター製作の通信教育を見たり、たくさんの部材屋さんの広告を目にしたりすると、いかに広い国とはいえこれだけの供給に応えるだけの需要、つまり自分で作ろうと思う人々がたくさんいるのだなと実感します。

私がギター作りを覚えるにあたり、近くに茶位親方のような人がいたこと、快く教えてもらえたことなど、そういう意味では私はとても運がよかったのだろうと思います。たいていの人は楽器を作ろうと思っても、教えてくれる人が見つからなかったり、仮に見つけても自宅から遠かったりで、なかなかチャンスがなく、そのままあきらめてしまっているのではないでしょうか。そんな願いを持った人にひとつのきっかけと場所を提供したいというのが「クラシックギター製作塾・tamaniwaワークショップ」開塾の動機です。私に与えられた幸運を他の人にも分かち合いたいと思ったからです。しかし誰もがギター製作に向いているわけではありません。またまず作ってみなくては自分が向いているかどうかも分かりません。私の場合も最初に作り出してから、はじめて自分がこんなにもギター作りが好きだったということに気がついたのですから。元来ものを作ることが好きであること、音楽とりわけギターが好きであること、この二つが必須条件でしょうか?

2011年夏、茶位親方は突然この世を去りました。79歳。その年五月にはお元気な様子だったのに、あまりにも唐突のことでいまだに信じられないでいます。ご冥福をお祈りします。

 

それではワークショップのことを書きましょう。

弦楽器の大半は「木」でできています。木は自然にあるもの、身近にあるものです。そして誰でも一度はノコギリやカンナを使った経験はあるはずです。カンナを使ったことのない人でも、木のかけらをナイフで削ったことはあるでしょう。それで充分です。メキシコのある町ではたくさんのギターメーカーがあって、なかにはナイフ一本で仕上げる人もいるとか。特に大きな力は要りません。女性でもお年寄り〈私もお年寄りです〉でも気軽に作ることができます。要は愛情をこめて作ること、これがいい楽器を作るコツ です。

ギターファンのなかには木工的な技術など私よりはるかに優れている方もいらっしゃるはずです。茶位工房にも本職の大工さんがウクレレを作りに来ておられました。演奏技術などは私の方が教えてもらう立場にあります。ですからこの塾では「教える」という形式はありません。一緒に楽しみ、意見を出し合い、工夫をしてみる場なのです。お互いが知っていることを伝えあう場なのです。どうしたら「いい音」が出るのか、そもそも音はどうやって響くのかなどを同好の士と語りあっていたらそれこそきりがありません。2週間では足りなくなるのではないかと心配します。

一度に滞在していただく人数はお一人。お仲間と一緒という場合でも二人までです。私が茶位親方のもとで習ったときもそうでした。新しいテクニックを覚えるときや疑問が生じたときには一対一の方が断然有利です。

 

tamaniwaワークショップの作業は朝9時に始まります。12時から2時までは昼休み、夕方6時まで製作に励んだあとは夕食〈自慢をするわけではありませんが、わが家の料理はおいしい〉、朝食、夕食とも7時です。夕食後、秋の終わりの頃などは薪ストーブの前でゆっくりとおしゃべりをして過ごすこともできます。あらかじめお断りしておきますが、歩いていける範囲にはいわゆる「遊ぶ」場所はありません。コンビニもありません。散歩をする場所はいくらでもございます。運がよければカモシカやリスに出会えます。運が悪ければクマに。iTunesにはかなりのギター曲も入っています。要するに滞在者として過ごしながらギターを作ってもらうわけです。

2004年8月30日、工房オープンの直後、塾生第1期生、寄藤さんがギター作りに挑戦しました。カンナも持ったことがないという若者です。

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どうなることかと危ぶみましたが、ていねいに作業をしたことが功を奏して、立派に音の出る楽器が完成しました。「ここをできるだけ平にして」と指示をしたら、フィンガーボードの面だしに半日かかりました。しかしそれはそれは完璧な平面になりました。フレットをヤスル必要もないくらいに高低差はなく、試奏でもビレません。これには脱帽しました。こういった几帳面さも楽器作りには必要なことです。ヘッドのデザインやヒールの加工などは、はじめてのことでもあり、多少難が残りますし、用心のために〈うっかりすると透きとおるくらいまで削ってしまいそうで〉サウンドボードなど少し厚めに設定したので、音ののびが多少不足気味という欠点があるものの、とても立派なギターです。

最後の3日間はフレンチポリッシュに挑戦しました。戸惑うことの連続は家に帰っても続きます。その後届いたご連絡ではあまりうまくは行かなかった様子でした。最終日の晩には寄藤さんの演奏を聴かせてもらいました〈実は彼、ここでも一日2時間以上も練習をするという熱心なギタリストなのです〉。

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あっという間の18日間でした。到着した日の朝の気温は19.5度。9月17日6時は10.5度でした。季節は確実に移り変わっていました。

 

 

 

 

 

 

img28992第6期生のA.Cさん。最若年であります。13歳、彼女の通っている学校の中等部最終学年の卒業プロジェクトの課題としてギター製作を選びました。もっとも初めは誰もが「それは無理だ」と翻意を促したのだそうですが、それを押し切ってやってきたのです。東京から各駅停車を乗り継いでくるという熱意に押されてこちらもできる限りのことをしました。

 

キットではなくどうしても一からやりたかったという気持ちは見事に実って、立派なギターができあがりました。学校の課題ですから、ただ作るだけではなく、プロジェクト発表のための資料も集めなくてはなりません。ですから製作メモは実に詳細です。メモや日誌はすべて英語で書かれています。つきそいのお父さんは写真を撮ったりメモの手伝いをしたりです。トムさんがいちばん力を発揮したのは食後の皿洗いでした。バイヤーズ式レイズドフィンガーボード、650ミリ、21フレットまであります。わずか髪の毛一本の隙間が空いても妥協しない強さがあり、指導するこちらにとっても大変貴重な勉強になりました。最終の二日間は時間が足りず、休憩時間を削ってのオーバータイムになりました。できあがったギターを抱える彼女の顔は実にうれしそうでした。img16052

 

大の大人にも負けない楽器を作ってくれたAmiちゃんはtamaniwaワークショップの誇りです。

 

 

 

 

 

img0866具体的な作業について述べます。まず工房、作業場から。建物は木造2階建て、それほど大きな家ではありません。工房は建物の基礎部分にあります。デッキの下の雪囲いをしている部分です。1,2階は居住部分です。滞在していただく方は2階のこぢんまりした部屋を利用してもらいます。ルーフウィンドからは星空を見ることのできる、屋根裏部屋のような感じです。

滞在期間は延べ2週間。その人の技術にあわせてカリキュラムを組み、材料を調えます。技術が不足する場合や10日間コースの人、体力のない女性の場合には––amiちゃんの例からもお分かりの通り、ほとんどの場合は問題はありません––時間短縮の意味で、ある程度機械力の助けを借りることになります。

 

ギターという楽器はできあがってしまったらもうおしまいというものではありません。ギターに限らず楽器は音楽的に「いい音」が出なければ楽器とはいえません。また「いい音」が出てもうまく弾かなくては音楽にはなりません。とはいうものの、それが買った楽器でなく自分で作ったギターなら、少しくらい音が悪くたって......

できあがったギターを弾きこなす、不満な点があったらあちこち調整してみる、それでもその楽器に満足できなかったら、さらにいい「音」を求めて新しい楽器を作る...... この趣味はやればやるほど到達点はさらに深くなっていきます。第2期生のY.Aさんはすでに5本ほどのギターを作られています。さらに修理・製作のプロとして一本立ちしました。

多少音はよくなくても、世界にひとつしかない、しかも自分の手で作ったギターを弾く、さらに「音」を求めて探求を続ける。これは他の人には真似のできない個性豊かな趣味といえるでしょう。

第3期生として南陽市にお住まいのH.I氏が毎日曜日に製作に通われました。モデルはダニエル・フレドリッシュ。なんと7弦のギターです。2005年末、雪が降りだす頃完成しました。その後そのギターの音に飽きたらず、ネックを残して他の部分はすべてイチから作り直すという作業にかかりました。それも無事完了しました。P1000356s

p1000335新たに2007年から始まったレイズドフィンガーボードの製作に挑戦した塾生は、第5期生、埼玉のT.Sさんです。塗装も完了して音もかなりのものだということでした。それから8ヶ月後、工具、ジグ、材料などをすべて自前でそろえ、第2号器が完成したという報告がありました。奥様への誕生プレゼントだそうです。

 

640スケール、エゾマツを使用しています。さらに同じ年の暮れにもう1本製作して、これは米国在住の息子さんへのプレゼントにするのだそうです。2009年暮れに無事ニューヨークは運ばれましたとのご報告がありました。さらに驚くことに2010年の秋、こんな写真が送られてきました。どんどん進歩しています。カットアウェイのアクスティックギターです。4番目の作品となります。

 

現代のギターはスペインで完成したといわれています。スペイン人の手の大きさは日本人と比べてどうなのでしょうか?だいたいギターのうまい人は指も長いのではないでしょうか?もちろん小さい手の持ち主でありながら巧みに演奏するプロのギタリストもいます。それでも素人のための楽器はプロの使うものと同じサイズでいいのかなぁと思ったりもします。

ネックの幅やフレットの間隔など自分の手に合わせて作るということも、自分で作るなら難しくはありません。

 

dsc01809わたしの孫のために作ったギターです。弦長は480ミリ。ここまで小さくすると音質はウクレレに近くなってきます。しかし640ミリ、630ミリくらいのサイズでしたら、650ミリとほとんど変わることはありません。弦長の変化による違いよりも、一つ一つの楽器が持っている性格の違いの方が大きいといえるでしょう。

 

img25772010年9月18日 西置賜郡白鷹町のAYu:Mあゆーむという、小さいながらも音響設計の素晴らしいホールで、「福田進一ギターリサイタル」がありました。わたしの所属するアンサンブルが主催したものです。

 

プログラムの最初の2曲、ソルの「モーツアルト 魔笛の主題による変奏曲」、アルベニス「アストゥリアス」にH Doble No.34が使われました。福田さんの心憎いまでのサービス精神です。

 

 

  

IMG7023秋田市からおいでのS.Kさん。10日ずつ2回に分けての作業でした。

 

初めのうちはなまっていた身体もじょじょに力仕事に馴染んできて、5日ほどの間隔をおいての後半では、もう大汗もかかないようになってきました。

 

お持ちになったフレット線がかなり固いステンレスでしたので、たいへん苦労しておられました。でもご覧の通り形としては立派な「トーレス」です。IMG7134

 

 

2013年10月 沖縄のYさんが入塾しました。最遠記録です。3日間の塗装コースまでおやりになって帰られました。

IMG012224弦13フレットが少し高い以外は問題はありませんでした。

 

2014年4月末 東京のN さん入塾です。2回に分けての製作でした。

2回目は6月はじめ。ゆっくりと作ったのが功を奏して、いい音のするギターができました。

 

IMGa0705お忙しい仕事をしていらっしゃる方ですから、塗装に取りかかるのはまだ先かもしれません。気になります。

 

同じ年の8月、つくばからSさんがおいでになりました。時間はかかってもいいからていねいに作りたいというご希望で、13日目でいったん終了。9月にもう一度おいでになりました。合計20日間で見事完成。塗装前にしては伸びのある鳴り方です。IMGa1038自分がいま持っている楽器よりよさそうなどといって帰られました

 

2015年はたいへん忙しい年になりました。5月1日からは松戸のWさんの第1期。Wさんは宇宙関係の仕事をしている方です。ひきつづいて6月6日から香港のセシルさんの第1期。海外からの塾生は初めてです。

 

 

IMG0637セシルさんはとってもまじめな人。お酒もコーヒーも飲みません。フリーな時間にはよくギターを弾いていました。

 

 

暑い8月はおやすみして、9月に入ってすぐにWさんの第2期が始まりました。少し時間が足らずさらに3日追加です。

 

ついにできあがり 。IMG0570

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10月3日、岡山のMさん入塾。非常に几帳面な人で、その分すこし時間がかかります。

きちんとした性格に似合った楽器ができました。IMG0922

 

 

 

 

IMG09521家に持ち帰って、ブリッジの装飾、塗装を行います。

 

そして月末までの1週間は香港からのセシルさんの後期が開講されました。暖かい気候になれた身体にはこの山の気候はすこし寒いことだろうとストーブを焚きました。帰国前日に弦を張って試奏することができました。IMG0819

 

 

R0014974R岡山のM さんの2台目です。今後も継続して製作するそうです。

難しいカットアウェーもうまくこなしています。

 

 

 

 

 

 

2016年夏の塾生は東京のA.I. さん。すこしていねいすぎて(?)時間がかかりましたが、とてもいい音の楽器ができました。IMG1953

 

 

 

 

2017年3月末、香港のセシルさんからこんな写真が送られてきました。塗装も進んでいるそうです。IMG2801480x640小さなスピーカーからある周波数のトーンをだして、振動のパターンを描き出すクラドニパターンの実験です。振動子はお茶の葉っぱだそうです。

その後東京のTさんが入塾。学校でヴァイオリン製作を学ばれている方です。隣のクラスでギターを作っているのを見て、将来役に立つだろうとおいでになりました。進め方がていねいですから、今後工具の取り扱いになれてくればいい結果を生むのではないかと思います。

IMG2328最終日にできあがったのはこんな楽器です。ていねいに作っただけあって音はそこそこ出ています。

 

5月、そして10月には名古屋のHさん、仙台のWさんが塗装の基礎を知りたいといらっしゃいました。どちらもセミプロ、プロの方ですので、教えるとはおこがましくて冷や汗の連続でした。さすがに知識が豊富ですから、ほんのちょっとご説明するだけですぐにのみ込んでくれたので助かりました。

 

P10000607月には東京からMさんがアクスティックギターを製作にきました。10日間しか時間が取れないので、キットを使うことにしました。StewMacのキットです。厚紙の内型を使うなどおもしろい経験をさせてもらいました。塗装も大胆に顔料系の絵の具を塗るという斬新なもの。出来上がったギターでご本人作曲の歌「ハンドメイド」、他人のコピーではない生き方を手作りのギターに重ねて歌い上げてくれました。バンドでもこの楽器を使うそうです。

 

 

cecil-2cecil-1一昨年入塾した香港のセシルさん、冬の山形が見たいと、こんどはご夫婦でおいでになりました。飛行機が遅れたりして滞在時間は短くなってしまいましたが、ゆっくりとした時間を過ごしてもらいました。翌日からは吹雪でしたので、山寺や蔵王を楽しめたかどうか、少し気になります。

 

 

 

ここまでtamaniwaワークショップの成り立ち、最近のことなどを述べてきました。

ご質問、見学の希望、受講のお申込みなどはメールフォームをご利用ください。

電話は: 0238-48-2833

郵便は: 999-0361 山形県東置賜郡川西町玉庭 6543-18

tamaniwaワークショップ 浜崎 浩

までお願いします。

 

 

 

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