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クラシックギター製作塾・tamaniwaワークショップ

 

フレンチポリッシュ

 

 

フレンチポリッシュ 2

 

tamaniwaワークショップの標準コースでは塗装は省略されています。塗装の技術は短時間では習得できないということと、行程自体が長時間を要し、とても2週間のなかに納めきれないというのがその理由です。しかしギターは塗装を施されて初めて楽器として完成します。塗装はギター製作とはまったく別個の作業ですが、その概略を理解してもらうためにこの項を設けました。

ここではシェラックを使っての塗装をご説明します。シェラック塗装のうちでもタンポによる塗装、いわゆるフレンチポリッシュといわれる塗装法です。ギターの製作法と同様フレンチポリッシュにも様々な方法があります。それこそ施す人の数だけあるといってもいいでしょう。ですからここでご説明するのはあくまでも私の採用している方法であって、これが正しいフレンチポリッシュだというわけではありませんからこの点は誤解のないようにしてください。また同じ方法を採用しても、作業する人によって、タンポンに塗料を含ませる量、タンポンにかける圧力、時間などは違います。また研磨の頻度も変わってきます。各自がそれぞれの好みにあったやり方を見つけだすことが必要です。要するに「経験」することが大事なのです。

img0893これがシェラックフレークです。溶けやすいようにすでに細かくしてあります。シェラック溶液には寿命(だいたい半年くらい)がありますから、あまりたくさん作っても無駄になります。せいぜい200ccくらいでいいでしょう。私はもっと少なく、一度に120ccしか作りません。ちなみに古い溶液を使うとどうなるかというと、塗装面はいつまで経っても触るとベタベタして、乾いたと思っても洋服の生地の跡がついたり、こすれたところが白っぽくツヤがなくなったりします。120ccのアルコール(いろいろな説がありますが、工業用アルコールでも構いません手に入りやすいのはエチルアルコールかもしれません。いずれにしても少量ですから、値段の差は気にする必要はないでしょう。最近わたしは無水アルコールを使っています。)に28〜30グラムのシェラックを溶かします。温度条件がよければ二日くらいで溶けます。頻繁に揺らしていれば1日でも溶けることがあります。コーヒーの濾紙などを利用してこの溶液を漉します。密閉しやすいビンなどに入れておきます。必要な分だけスポイトビンに入れておきます。

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右からシェラック液、アルコール、そしてジョンソンのベビーオイルです。なぜジョンソンベビーオイルなのかは後ほどご説明します。シェラック、アルコールはスポイトのついたビンに入っています。これは必要とする分量を調整するのに便利だからです。上の方にあるのはタンポンです。といっても何か細工をしたわけではありません。Tシャツの古いものを15センチ角くらいに切ったものを2枚用意します。必ず古いものを使ってください。新しいジャージは油分がありまたむだ毛が出ます。1枚をなるべく堅く丸めます。もう1枚でその玉を包んで、ちょうど糸で縛っていないテルテル坊主のようなものを作ります。シッポにあたる部分を持ってぎゅっと絞るようにして、頭を丸くします。これでタンポンのできあがりです。──最近チーズクロスと呼ばれるものを使ってみました。目の粗いガーゼのようなものです。油分をまP1000458ったく含んでいない綿でできています。これはなかなかいいようです。まず塗面に当たる部分が固くなりません。またガーゼの1本1本の糸が自由に動いて、複雑な面にもまんべんなく当たってくれます。さらに塗面に当たる部分が汚れないようです。ジャージの場合はこする部分の外周にシェラックがたまってしまい、汚れとともに固くなってしまいます。まだこれから実験を続けてみます。──いずれもテルテル坊主は最初はあまり大きくしない方がいいでしょう。大きくてもせいぜいピンポンボールくらいにします。

外国で出版された塗装法などを読むと、1 cut とか、2 cut などと書いてあります。薄める前の基本的なシェラック溶液のことです。どれだけのアルコールに何グラムのシェラックを溶かすかということで決まります。オンスやガロン、ポンドなどの単位がでてくるともう訳が分からなくなります。ですから私は120ccに30グラムと決めています。これ以上濃い溶液を作る必要はなさそうです。

さて塗装をするための準備をします。まずギター全体にていねいにヤスリをかけます。220番くらいから始めて320番くらいで仕上げます。塗装の前にはヤスリをかける、これはあまりにも当然のことですので結構いい加減にやる人が多いのです。しかし実はこのヤスリ作業つまり下地作りがとても大切なのです。これがいい加減だとどんなにていねいに塗装しても、いい結果が出ません。平面はかならず当てゴム、当て木を使ってください。この作業が最期の仕上がりに大きく影響します。力を入れすぎずに丹念にヤスってください。

十分に明るい作業台を用意します。自由に角度を変えて照らすことができるアームライトなどがあると便利です。前方上部から照射し、光の反射が自分の目に入るような角度で照らして使います。

 

第1日 

下塗り(seal coat) (S1 : A1)

ヤスリかけで出た埃をよくふき取ります。一枚の布(平織りでもニットでも結構ですが、必ず綿を使います)を四つ折り、または三角に折って、シェラック(以後分量を表すときはSと書きます)、アルコール(同じくA ) を同量(2,3滴)垂らします。サウンドボードのネックのすぐそばからバインディングの上に布を当てます。そのまま布を持ち上げずにエンドブロックまでこすります。布にはべっとりとローズウッドの色がついているはずです。布を折って新しい面を出し、液を追加して反対側をこすります。布は持ち替えたりせずに一気に動かします。ゆっくりで結構です。これはバインディングやパーフリングの色がサウンドボードに移らないように、色止めする作業です。裏側もパーフリングの白が染まって欲しくないときは同様に色止めをします。ロゼットの部分も同じように塗ります。一度布を持ち上げたらかならず新しい面を使うように注意します。これを2回繰り返します。これがシールコートseal coatです。

色止めが乾いたら、次にシェラックを全体に塗ります。濡れた布巾で拭くような感じです。たたんだ布、または丸めた布、どちらでもかまいませんが、たっぷりと液(同量)を含ませておきます。これをウオッシュコートwash coa tと呼ぶ人もいます。1時間ほど乾燥させます。これも2回繰り返します。

乾燥したら目止めをします。ギターのバックボードやリブ、ヘッドの表などはたいていはローズウッドが使われます。ローズウッドは導管や気孔が大きいという特徴があります。要するに顕微鏡で見ると穴だらけだということです。この穴を埋める行為を目止めというのです。目止め剤というものを使います。シリコン系、エポキシ系、天然物など種類があります。乾燥の早さや塗面の堅さなどがそれぞれ違います。無色のものを使ってください。ローズウッドの色などに似せたものもありますが、これはお勧めしません。そのほか軽石の微細分であるピュミスあるいはパミスと呼ばれるものを使ってローズウッドそのものをこすりだして目止めをする方法もあります。分厚い塗装を目指すのでなければ、サウンドボードは目止めをする必要はありません。またかなり我慢強い方は目止めの必要はないでしょう。シェラックだけで穴を埋めればいいのですから。目止めをすることによってなめらかな塗装面を早く実現できます。

目止めが乾燥したら、220番のペーパーで目止め剤を落とします。少しくらいかすれている方がいいという人はこれで目止めをやめてもいいです。もう一度シェラックを塗って、さらに目止め作業をやれば完璧です。

ふたたび220番でヤスリます。ホコリを払ったらシェラックをもう一度塗ります。目止めの結果がよければ本格的な塗装の行程に移ります。

記憶力のいい方は別にして、同じことをくり返しているうちに今はいったい何回目なのか分からなくなってしまうことがあります。そんなときのために作業表を作っておくといいと思います。一例を挙げておきます。プリントして使うこともできます。

 経験を積んで、表面の状態から次の作業を推定できるようになったら、この作業表は不要になるでしょう。

 

第2日

第1セッション(S5 : A1)

img0890最初にどこから塗りはじめるかは決まりはありません。が、バイスなどで固定するときは表側から向かって右側のリブから始めます。回転したときに塗り終わった面が自分の身体とは反対側に行くようにします。リブを上にして台の上に置きます。リブの1/3を目安に塗り始めます。塗りにくければウェストから後ろを3分割、前を2分割、合計五つに分けて塗ってもいいです。どちらの場合もウェスト部分は別にやらなくてはなりません。パッド(タンポン)にS5,A1(ピンポン玉くらいの大きさでしたらS6:A2。以下合計が8〜10になるようにしてください)を含ませます。スポイトの場合はそのまま5滴と1滴です。この分量のシェラック液を一カ所につき3回くらい繰り返します。パッドを塗面につけるときと塗面から離すとき、パッドが停止しないように注意します。着地の時も離陸の時もパッドは常に動いている状態でなければなりません。パッドは常時動いていなければならないのですから、パッドは円運動をすることになります。直線運動では方向が変わるときに一瞬停止してしまうことになりますから。パッドの滑りが悪く、引っかかるようでしたら、ここでベビーオイルに登場願います。

潤滑油として使うオイルは、これも人によって異なります。オリーブオイルがいいという人、リンシードオイル(亜麻仁油)だという人、植物油がいい、いや鉱物油だという人、様々ですが、いろいろ試した結果わたしには「ジョンソン」ベビーオイルがいいということになりました。ジョンソンベビーオイルは添加物ゼロです。溶剤がエタノールの場合でも問題はありません。これはさまざまな要素──パッドに掛ける圧力、シェラックの濃度、量、塗布する頻度など──によって違った結果が出てきますから、ご自分でいろいろ試してみる必要があります。ただしオリーブオイルなど植物性の油は概して乾きが遅いですから、塗装の翌日などに表面に浮き出してきます。これをていねいに拭き取ってから続きに取りかかってください。また最終段階でアルコールを使って余分なオイルを取り去る必要があります。鉱物油、植物油のいずれにしてもごく少量をパッドにつけるにとどめておいてください。液を含ませたパッドの表面にベビーオイルをほんのわずかつけるだけです。これでパッドの滑りは大幅に改善されます。

 

リブ1の次は表、リブ2,バックと進めます。パッドは直径3センチから5センチほどの円を描きながら進めます。全体をまんべんなくこするように注意します。特に円の周辺部、バインディングの近くなどは回数が減りますから十分にこするようにします。パッドが楽器の縁から落ちないように注意しないと、爪などがあたってキズをつけてしまうことになります。パッドに含ませた液がなくなってきたなと感じたら液を補充します。光にすかしてみるとパッドの通った後に薄く膜が張るのが見えます。これも液の補充の目安になります。この膜がはっきりしなくなったら補充してください。表や裏の広い面はおおざっぱに4等分ないし6等分にエリアを決め、それぞれのエリア内を集中して塗り込んでいきます。パッドの大きさや含ませる液の量にもよりますが、はじめはあまりエリアを大きくしない方がいいでしょう。各エリアはお互いにオーバーラップします。

すべて終了するのに1時間半から2時間かかります。写真ではセーターを着用した腕が見えますが、よほどの寒がりでなければこれは避けた方がいいです。シェラックに限らず塗装にホコリは大敵です。特に行程の初期には気をつける必要があります。個人の工房では塵ひとつない状態など期待できませんが、せめて自分からはホコリを出さないようにしましょう。毛足の短い衣類を着た方がいいでしょう。腕カバーも有効です。

塗り終わったら次の日まで乾燥させます。タンポンにはスポイト2本分くらいのアルコールを含ませて密封容器に入れておきます。

 

第3日

第2セッション(S5  A1)

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前日塗った面はこんな風になっています。窓の光が写りこんでいます。まだむらむらです。すり込んだオイルは塗面にはしみこまず、表に浮いています。

第1セッションをくり返します。パッドが描く円は前日よりだんだん大きくなります。これはパッドの滑りがなめらかになってくるためです。次の場所に移動する前には、木目方向に長くなる楕円運動を心がけます。ここでひとつ注意することがあります。これからのち各セッションを開始する前にかならずわずかに湿った布で塗装面をきれいに拭いてください。表面には一晩のうちにホコリなどが乗っています。これをふき取っておかないと、シェラックと一緒にすり込まれてしまうからです。表に浮いたオイルもふき取ります。

塗装作業は目で確認しながら行うのはもちろんですが、聴覚も触覚も駆使します。耳ではパッドと塗面とがこすれる音を確認します。塗面ができ上げってくるにつれて、音はなめらかに静かになってきます。指先に感じる抵抗感(実に微妙な)も順次変わっていきます。シェラック塗装は味覚と嗅覚(換気の悪い部屋では重要)以外の感覚を研ぎすます必要があるわけです。

第1セッションをくり返したら乾燥させます。 厚めの塗装を目指す場合は、このあともう一度このセッションをくり返します。

 

第4日

水研ぎと第3セッション (S4 : A2)

 

img0896前日に比べるといくぶんツヤが出てきました。今回は水研ぎをします。wet sandingともいいます。600番くらいの耐水ペーパーを用意します。使う前に15分から20分くらい水につけておいてなじませます。ところでこのペーパーの番手は国によって規格が違います。どの国の製品を用意するかによって番手が異なりますのでご注意ください。ギター製作に必要と思われる部分だけを選んで比較してみます。いずれも手研磨の例です。機械を使う場合は一段階以上番手をあげた(つまり目を細かくする)方がいいでしょう。どの製品でもおおよそ400番くらいから耐水ペーパーがあります。私の工房では9ミクロンと30ミクロンのフィルムを使います。JISでだいたい#1200,#600に相当するのではないかと思います。また使われている粒子によってG, AA, WA, CC, GCなどの記号が書いてある場合もあります。

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耐水ペーパーと違って、フィルムは長く水につけておく必要はありません。この段階ではシimg0900ェラックの層はごく薄いですから、そっとなでるように研磨します。特にバインディングの角などはすぐに地肌が出てしまいますから力を入れないように気をつけます。乾いた状態ではこすらないこと、ペーパーは常に濡らしておくこと。

シェラックの溶け出た水は頻繁にふき取っておきます。ふき取った後光にすかしてサンディングの結果を確認します。

 

img0899パッドの軌跡の周辺などにシェラックが固まっていたりしますからよく確認します。このときも触覚を活用して指先で確かめながら行います。

均一にヤスレたと思ったらそのまま1時間ほど乾燥させます。

 

 

 

 

第3セッションに入ります。第3セッションではいままでよりアルコールの量が多くなります。各エリアの終了時にはパッドを大きく動かして、エリア全体を軽く伸ばすような感じで塗ります。最後のエリアが終わったときには、新しくシェラックを補充して、すべてのエリアの境界を消すようにして、表や裏の全体を木目方向に直線的にこすります。すべての面が終わったら一晩おきます。

 

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