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第5日 第4セッション (S4 : A2)
5日目朝の状態です。第4セッションを開始します。第3セッションと同じくS4に対してA2の割合です。ところでここまでネックやブリッジ周辺の塗装に関しては触れてきませんでした。これは私がネックやブリッジを貼り付ける前に塗装を施してしまう製作法を採用しているからです。しかしヒールとリブの接点、フィンガーボードとサウンドボードの接点、ブリッジの周辺というのがもっとも塗りにくいところなのです。すでにネックもブリッジも貼ってあるという場合は、いままで使ってきたタンポンでは塗装ができません。小さなタンポンを作るか、布を折りたたんで使います。このとき注意しなければならないことは、パッドの面積が小さくなりますからいままでタンポンにかけてきた圧力と同じ力で擦ってはいけないということです。含ませる液も少量にしなければなりません。擦る範囲が小さいですから、ついつい同じ場所を何回も擦ることになってしまいます。その結果すでに塗ってあるシェラックを溶かすことになってしまい、塗面はガサガサになるということになりかねません。常に遠く離れたところまで寄り道してまた戻るということをくり返してください。 このセッションのあたりからバックやリブなど目止めをした場所は、幾層も重ねられたシェラックがそれぞれ光を反射して、ホログラムのような効果が見えてきます。目止めをしていないサウンドボードはまだかすれが目立つような状態です。目が詰んでいる材の場合冬目(木目の色の濃いところ)にはシェラックが浸透せず、波板のような感じになります。なんどか水研ぎをするうちに目立たなくなりますが、できあがってからも乾燥が進むうちに波板状態は現れてきます。これが気に入らないという人はサウンドボードにも目止めをしなければなりません。 セッションが終わったらこのまま放置します。空気が乾燥していて、温度が適当であれば(すくなくとも20℃以上)2,3時間後に次のセッションに入ることもできます。しかし一見表面が乾いたように見えても、内部ではまだということがよくありますから、経験を積むまでは急がずゆっくりと進める方がいいでしょう。朝と夕方に1回ずつセッションを行うということもできます。ただし乾燥だけははしょらないように。条件がよければ2日くらいで仕上げてしまうこともできるそうです。アメリカの製作家R. E. Bruneは自分の息子は一日ですべて完成したといっています。(American Lutherie誌 #79)しかしかなりの体力を必要としますし、乾燥はどうしたのかと疑問に思います。 場合によってはこのセッションをもう一度くり返します。
第6日 水研ぎ(2回目) 第5セッション (S3 : A3)
水研ぎ前の段階です。μ30(jas600番くらいに相当)で研ぎます。私は右手の指を3本使ってできるだけ平になるように擦りますが、小さな消しゴムをパッドにして当ててもいいでしょう。特にある特定の場所だけを集中的にヤスル場合には、かならず当てゴムをしてください。せっかく塗り重ねたものを取ってしまうのはもったいないような感じですが、今回は前回よりももっと丹念にヤスリます。塗面の60%以上がツヤ消しの状態になるようにします。1時間ほど乾燥させます。 第5セッションに入ります。このセッションからS3 : A3になります。シェラックとアルコールの割合をはじめから最後まで変えずに行う方法もあります。ただしこの場合は各セッションの終了時に、「油抜き」をする必要があります。塗面に混ざっているオイルを押し出して、ふき取る作業です。簡単に説明しておきます。アルコールを3,4滴含ませたパッドで端から端まで擦りあげます。ある程度力を入れて大きな円を描くようにし、最後に文字通り押し出すような動きで長い直線を引きます。オイルを表面に出す作用と、パッドの軌跡を消す効果があります。だんだんとシェラックの量を減らしていく方法では段階ごとにオイルは押し出されますので、あまり油抜きを意識しないですみます。ただ各エリアの最後に大きな円を描き、またセッションの最後に塗面全体にパッドを大きく動かして軌跡を取る動作は必要です。
第7日 第6セッション (S3 : A3) 第5セッションと同じことをくり返します。この段階でかすれや不完全なところは取り除きます。不満な部分は集中的に攻めて、全面が同質になめらかになるようにします。またサウンドボードやバックの終了時には、ボディ全体を大きく直線的に擦るようにパッドを動かします。ここで一晩乾燥させます。まだ少し不足と感じられる時はさらにもう一度第6セッションをくり返します。湿度が高めの時は2晩乾燥させてください。
第8日 水研ぎ(3回目) 第7セッション (S2 : A4)
映りこんだ窓の輪郭がくっきりとしてきました。これから3回目の水研ぎに入ります。いままで通りμ30を使います。そのあとでμ9も使用します。はっきりと分かりませんが、1200番から1500番に相当するのではないかと思います。これはμ30の研ぎあとをさらに滑らかにするためです。 研ぎ終わったらよく絞ったきれいな布で全体を拭きます。1時間ほどおきます。 第7セッションを開始します。まずパッドの外側の布を新しくします。シェラックの割合も S2:A4へと変化します。全体がむらなく塗れるまでくり返します。いままで一カ所に3回くらい液を補充していたとすると、このセッションでは4,5回にしてください。大きなキズやケバが見つかったときは、水研ぎをした上で問題の場所を塗り直します。この頃から毎回オイルをつける必要がないような状態になります。終了後一晩乾燥させます。
第9日 第8セッション 第7セッションをくり返します。問題がなければいままで通りのやり方で行います。問題があれば水研ぎからやり直します。すでにお分かりのように、すべてのセッションはこの通りである必要はありません。セッションの翌日の状態でさらにくり返すことも可能です。 二晩乾燥させます。
第10日 乾燥
第11日 第9セッション (S1 : A5)
この段階で気になる点があったら、さらに第7セッションをくり返します。水研ぎを追加してもかまいません。満足がいったところで充分に乾燥させてください。 すでにパッドは余分なシェラックがたまって柔軟性を失っているはずです。一番外側の布はもちろんのこと、中身もソックリ新しいものに取り替えましょう。 第9セッション:S1:A5の割合で溶液を含ませます。いままでと違う点は動きを大きくすること。塗り跡が残らなくなるくらいパッドが乾くまで擦ること。またバックやトップなど大きな面をやったあとは、もう一度液を補充してこんどは全体に大きく擦ること。リブは少しやりにくいですから、できる範囲で結構です。これを2回くらいやります。終了後翌日まで乾燥させます。
第12日 第10セッション (S1 : A5) 前日の作業をくり返します。特に次の面に移る際の作業(全体に大きくパッドを動かす)は念入りに行います。パッドの円形の軌跡が消えるまでくり返してください。全部を塗り終わったら1週間乾燥させててできあがりです。乾燥後ごく細かいコンパウンドで磨き上げるのも一つのオプションです。
これでお分かりのように非常に条件のいい日が続けば、12日間で塗装は完了できるということになります。しかし現実にはそうはいきません。乾燥の具合を見ながら進めてください。急ぐのは禁物です。通常は15日から20日間はかかります。また好み(あっさりしのがいいか、ぼっててりしたほうがいいか)によっては作業は最大で2倍になるでしょう。すべては経験です。ここに書いてあるとおりにやれば必ずうまくいくというわけではありません。私は塗装はなんどか失敗を重ねて初めてコツを得られる技術だと思っています。失敗にめげずにがんばってください。
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